2026年、大型工事はもう受注できない

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日経新聞の記事と私の撤退理由

日経新聞に「2026年、大型工事はもう受注できない」という衝撃的な記事が出ていました。理由は明確で、職人不足により完工の目処が立たないからです。この記事を見て、私が感じたことをお話ししたいと思います。

完工能力の欠如という根本的な課題

私自身、リフォーム業から撤退した大きな理由の一つが、まさにこの「完工能力の欠如」でした。仕事をいくら受注できても、職人が足りずに完工できないのです。

当時、リフォーム会社を経営していた私の経験から言えば、仕事自体は「腐るほど」ありました。受注しようと思えばいくらでも取れる勢いです。それも当然で、建物は新築物件として完成した瞬間から経年劣化が始まり、必ずメンテナンスが必要になるからです。

新築物件はハウスメーカーやデベロッパーによって毎年必ず市場に供給され続けますが、それらはすべて等しくいずれ補修が必要になります。ですから、リフォーム業において仕事がなくなることはまずありません。

もちろん、競合他社とのパイの奪い合いはあります。営業力の強い会社が仕事を取り、それを下請けに流すという構造が一般的です。あるいは、自社職人を抱える工務店のような形もありますが、それにはマンパワーという物理的な限界が存在します。「これ以上は完工できないから断る」となれば、あふれた仕事は他社へ流れていきます。つまり、需要自体は尽きないのです。

その中で、顧客ニーズを汲み取り、クレームなくスムーズに完工させる体制が整っている会社に仕事は集まります。昔ながらの職人気質の一人親方が現場を回すスタイルも需要はなくなりませんが、クライアントワークとなると話は別です。顧客の細かな要望に応えながら完工まで持っていくには、職人さんだけでは難しく、どうしても施工管理や営業といった、顧客との間を取り持つ機能が必要になります。

当時、私はトップ営業で仕事を取り、クライアントワークを行いながら、自社の施工管理や多能工の職人、大工を使って現場を回していました。しかし、仕事は次々と入ってくるため、自分だけ、自社の職人だけでは到底回りません。そこで横のつながりを使い、一人親方の大工、設備、電気、クロス職人などに声をかけてチームを組み、対応していました。

それでもやはり、職人は足りないのです。どのリフォーム会社も同じ状況で、職人の奪い合いになっています。需要に対してこちらの供給能力(完工能力)が追いつかないため、お客様にお待ちいただいたり、現場が疲弊していったりする状況が続きました。

本来、私は経営に専念すべき立場ですが、現場が回らない以上、私がプレイングマネージャーとして動かざるを得ません。部下に任せると、お客様の期待値を上回れず、クレームになったり、工期が遅延したり、仕上がりに不備が出て手直しが発生したりします。結果、完工金の入金も遅れる。支払いサイトとのズレが大きくなる。建築業界は黒字倒産が多いと言われる理由の一つです。だからといって私が現場に降りてすべてをカバーしようとすれば、経営がおろそかになり、何より私自身が疲弊してしまう。

ここにお金をかけて組織を整え、優秀な人材を採用できればよかったのですが、中小零細の、特にリフォームというオールドビジネスに優秀な人材を集めるのは至難の業です。わかっています。環境やまわりのせいにしても全て自分の責任です。私自身の経営者としての資質や魅力不足です。しかし、構造的にどのリフォーム会社も同じ悩みを抱えているはずです。(だからこそ上手くやっている会社や経営者はリスペクトです!)

経営判断と決断への葛藤

この状況下で、さらにアクセルを踏んで人を増やし、設備投資を行い、後戻りできないような組織拡大を目指すのかと考えたとき、私にはリフォーム業界の明るい未来が想像できませんでした。「ここで中途半端に拡大路線を取ると取り返しがつかなくなる」と考えましました。そこにコロナ禍が重なり、「もうやめておこう」と決断し、事業譲渡して縮小するに至りました。

仕事はたくさんあり、お客様からの期待もあるのに、職人不足でそれに応えられない。暇な職人を捕まえて現場に入れても、このご時世に暇をしている職人はやはりクオリティが低く、クレームや品質低下につながる。お客様は私たちを信頼して任せてくれているのに、その期待に応えられない、あるいは期待値を超える満足度を提供できないという現実に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

部下に任せれば、「報・連・相ができていない」「指示が反映されていない」といったクレームが発生します。それを教育し、組織をテコ入れして回していくのが経営者の仕事だと言われればそれまでですが、良い人材が集まらないというジレンマの中で、難しい経営判断を迫られる日々。正直なところ、相当なストレスを抱えていましたので、疲れてしまったのも事実です。私の経営者としての実力不足だったのでしょう。しかし、これ以上進んで取り返しのつかない事態になるのは避けたかったのです。


職人不足で職人が集まらないというのであれば、発注単価を上げるという方法もあるでしょう。
ただ、昨今の「安売りをしない、サービス提供価格を上げる」という言葉だけが一人歩きして、腕が伴っていないのに高単価を請求する職人も見受けられます。

また、腕の良い職人を高単価で抱えて組んでいれば、当然それは見積金額に反映させて高値で受注しないといけなくなります。そうすると「だったら大手でいいのではないか」と施主は考え始めます。

SNSなどでブランディングがうまくいっているところや、長年の実績がある会社であれば、「ここにお願いしたい。多少単価が高くてもあなたにお願いしたい、あなたの会社にお願いしたい」となるでしょうが、多くの会社はそんなにブランディングがうまくありません。

一方で、地場の工務店や職人上がりの経営者であれば、無理に拡大することなく、社長自身も現場に出て職人として生き残っていく道もあると思います。経営のレイヤーから階層を下げて、自身も職人として働けば現場は回るし食うに困りません。受注して受けられる分だけを自分でこなしていけば安泰という一面もあります。

しかし、職人としてやっていくには「体が資本」という絶対的な条件があります。外壁塗装や屋根の張り替えなど、真夏の炎天下や極寒の寒空の下、屋根の上に登って作業をすることもあります。空調の効かない過酷な現場で、重い資材を運び、肉体を酷使し続けます。

建物と同じで、体も年々経年劣化していきます。40代、50代ならまだいいかもしれません。しかし60代、70代になっても同じように現場で体を動かし続けられるでしょうか。体を壊したら終わりです。

ならば組織化して、自分は経営に専念するという道があります。規模を追って、自分がいなくても回るような仕組みを作ります。あるいは大きく拡大せずとも、少人数で自分が経営者として入りながら回すという選択肢もあるでしょう。
ところが、この業界には独特の構造的問題があります。

リフォーム業界は独立へのハードルが低いため、若手を育てようと思ってもすぐ辞めて独立していきます。中にはお客さんを引き連れて独立していくという不義理を働く輩もいます。トップ営業で仕事を取ってきて、部下や若手に現場を任せたとしても、育ったら辞めていきます。

少人数のままでやっていこうと思っても独立されてしまい、結局自分が現場に入り続けるしかありません。そんな親方たちを私はたくさん見てきました。「現状維持は衰退」という言葉があります。まさにその通りです。

結局、どの道を選んでも厳しいです。拡大すればリスクが高すぎます。一人で職人として残れば体が持ちません。少人数で現状維持しようとしても、独立されて衰退していきます。この建築業界の構造的な厳しさを、私は肌で感じてきました。

撤退後も悪化し続ける業界と深刻化する社会問題

私が撤退を決めた後も、この業界の状況は悪化し続けています。
今後、不動産は建てた瞬間から劣化しリフォーム需要は発生し続けるものの、職人がいないため工事が終わらない状況が常態化するでしょう。

じゃあ、どうすれば工事をしてもらえるのでしょうか。先ほども言いましたが、答えは単純です。高額な費用を支払うしかありません。優先順位を上げてもらうには、それ相応の対価が必要になります。

そうなると、地方の古い物件や、修繕費を出せない低所得層の住宅はどうなるのでしょうか。経済が冷え込み物価が上がる中で、高騰する工事費を払える余裕があるでしょうか。

マンション管理業界やインフラ維持の現場ではすでに問題化しています。職人の希少価値が上がれば、彼らは利益率の高い都心の現場や大規模案件に流れるため、地方や低予算の戸建て修繕は後回し、あるいは高額請求にならざるを得ません。

その結果、何が起きるのでしょうか。資金力のある都心・富裕層エリアのみが維持され、地方郊外はメンテナンス不全により資産価値が急速に毀損します。多くのシンクタンクが予測する不動産の二極化は、もう始まっています。

地方の高齢者はどうなるのか

すでに今、地方のボロ戸建てに住んでいる高齢者で、修繕費用が払えない人たちがいます。家が雨漏りを始めた、傾いた、水漏れが起きた、給湯器が壊れたなど、突発的なリフォーム費用が発生した時にお金がなくて、修繕できず、そのまま雨漏りしながら住むしかありません。

年金で暮らしていて貯金もない、そういう家庭が突発的にリフォームをしようと思っても払えません。なぜなら原材料の高騰、そして職人の単価の高騰のあおりを受けて、我々でさえリフォーム費用の値上がりに驚いています。その流れは今後もさらに続くでしょう。そして、空き家はこれからどんどん増えていくし、状況は悪い方向に行くばかりです。

当然、田舎だとインフラ整備も後回しになり、能登半島の復興も遅れているように、できるところから、今後のまだ需要があるところからの着手、これが優先されると思います。そうなってくると、これから地域格差がかなり出てくると思いますし、そういった地域が問題になってくると思います。

私が保有するリースバック物件の現実

実際、私が今保有している物件でも似たような事例があります。この物件は福岡市郊外にある戸建てです。そして60歳の男性が一人で住んでいます。

この方は借金が500万円ほどあって、もう家を売らないとどうしようもない状況になったというところから、物件が売りに出されていました。そして「リースバック」という形で、この家を売った後もあなたはそこに住んでいていいですよ、という条件でこの物件を買いました。お金がないということだったので、安い家賃で住んでもらっています。

家賃は4万5,000円です。90坪の土地に130平米の2階建ての戸建てがついています。ただ、この戸建ては築45年を過ぎていて、かなり老朽化も進んでいます。

賃貸の条件は、家賃が4万5,000円で、相場からするとかなり安い家賃です。郊外とはいえ、車で30分ほどで福岡市の都市部に出られるような地域なので、賃貸需要はあり、普通に貸し出せば10万円を超えるような家賃で貸せる地域です。

格安で4万5,000円という家賃で住んでいただいてはいるのですが、ただここで問題があります。建物の不具合、リフォームが必要だったり、改修費用に関しては「入居者が負担する」という特約がついています。その代わり安い家賃で住んでいいよ、というものです。

これは私が設定したわけではなくて、最初からその条件で売りに出ていました。
経済合理性を考えると、そのまま住んでいてもらって、何かあったら入居者が費用負担しリフォーム工事をするということで、貸し手の私からすると、安心ではあります。

入居者のこの男性からすると、目先の売却益を得るためにとりあえずその条件を飲んで売ったと。そして自分が住む家も確保し、良かったと思っているかもしれません。とはいえ築45年のボロ屋です。いつ突発的な修繕が必要な故障に見舞われるかは、こればっかりは分かりません。

そしてそうこうしていると、ある日役所から連絡があり、この男性が生活保護を申請したという知らせが届きました。なので賃貸借契約書の写しを送ってほしい、確認してほしいという内容の連絡がありました。生活には困窮しているようです。

この状態で、今後90歳まで生きたとしたら、あと30年ほどはあるわけです。当然リフォーム費用は払えないと思います。雨漏りがあったとしても、そのままで過ごすのでしょうか。もはや生活保護を受けて、違う物件に引っ越して、賃貸でまだ60歳前半なので賃貸には入れるので、今のうちに物件に何かあったとしても大家が修繕してくれるような物件に住み替えたほうがいいと感じています。そこは話をして、引っ越しのお手伝いをして、せめて自分が関わった方に関しては提案し動いていきたいなとは思っています。

そういう困った状況になっている老人は、私が持っている物件でもあるぐらいなので、全国的に見ればかなりの数がいらっしゃると思います。非常に問題だとは思いますが、こればっかりはどうしようもないと思います。

全国的にはそういった状況で何もできずに、ただただ快適さを失った家で過ごしている老人は多いのではないかと思います。また老人だけとは言わず、若い世代でも貧困層であればそういう状況になっている可能性も考えられます。今後の日本の経済状況の中で、こういう事例は増えていくのではないでしょうか。

南海トラフ地震という懸念

近年では南海トラフ地震なども不安視されています。もしも今大地震が起き、多大なダメージを日本が負い、復興のために日本中の職人がかき集められるとすると、この建築業界はどうなるのでしょうか。

東日本大震災の際も資材・人材不足が起きましたが、次は被害想定地域が広大です。現在の弱体化した施工体制で広域災害が起きれば、復旧が数年から十年単位で追いつかない「復興格差」が生まれることは、土木学会等でも指摘されています。

デベロッパーや建築業者の連鎖倒産が起き、不動産の買取再販業者もリフォームが終わらず再販できず、資金難に陥るなど含め、日本経済や人々の暮らしにどれだけの影響を与えるのか分かったものではありません。

郊外の住宅はメンテナンスが必要なのに職人がおらず、費用も高騰して直せません。平時でさえこの状況なのに、南海トラフが起きたら、この状況はさらに加速します。被災地は復興できず、被災していない地域も職人を奪われ、日本中が同時に崩壊していきます。そんな未来が、現実味を帯びてきています。

だから私はピボットする

局地的にはまだ戦える場所があるかもしれません。しかし、マクロの視点で見れば、今の構造のままでは日本経済、特にこの業界は行き詰まっているように見えます。
だからこそ、私は不動産や建築というオールドビジネスだけには張らず、新しい領域へとピボットしていきます。そうでなければ生き残れないという強い危機感を持っています。
中途半端に規模を追わず、身の丈に合った、しかし確実に生き残る道を選んでいきたいと思います。
私の判断が正しかったかどうかは、これから数年で分かるでしょう。ただ一つ言えるのは、この業界で拡大路線を取るリスクは、私には取れなかったということです。

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